ビジネス : 第3回 衝撃だったホリエモンの出現

第3回 衝撃だったホリエモンの出現

第3回 衝撃だったホリエモンの出現
 それなりに充実感があり、しかも世間水準に比べて高給だった(入社1年目の冬のボーナスが100万円だった時代です)記者人生でしたが、その一方で2004年頃から疑問を覚えるようになりました。
 その年、私の価値観を大きく揺さぶる事件が野球界で勃発します。
 近鉄球団がオリックス球団との合併を発表したのに端を発する球界再編騒動です。中学時代、ブライアント選手の4打席連続本塁打等、近鉄のドラマチックな野球に胸を躍らせた野球ファンとしてショックだったこともありますが、それ以上に衝撃だったのは近鉄の買収に手を挙げたライブドアの堀江貴文社長の出現でした。
 その頃まで私は、ネット業界はおろかビジネスの世界にほとんど関心がなかったので、ライブドアと堀江さんの存在を知ったのはその時が初めてです。上場企業の社長でありながら公の場にラフなTシャツ姿で出てくることも驚きでしたが、それ以上に創業して10年も立たない新興企業がプロ野球チームの買収に名乗りを挙げたことが鮮烈な印象でした。というのも、球団を買収する企業といえば、私がリアルタイムで見てきた中では、南海ホークスを買収したダイエー、阪急ブレーブスを買収したオリックスのように、何十年と積み上げてきた規模や知名度がある会社でした。そうした私の既成概念をひっくり返したライブドアは、しかも自分と年齢がそう変わらない人たちが役員や幹部として切り盛りしていると知って、何か時代が根底から変わろうとしているように思えました。
 その翌年、ライブドアのニッポン放送株買収が世間を騒がせ、やがて楽天もTBS株の買収に乗り出します。学生時代に憧れた名門放送局が、新興のネット企業に翻弄される様を見て、どんなに隆盛している産業・業界も決して安泰ではないと痛感します。
 やがて、私は新聞業界も放送業界とは違う形で足元を揺さぶられる時代が来るのではないかと不安にとらわれました。
 折しも楽天の買収の件があった頃には本社に異動し、激務の取材部署に配属される前に地方版のレイアウトを担当する部署に研修期間で半年あまり過ごしました。定時出勤・退社で出来た余暇を使い、インターネットの隆盛が新聞産業に与える影響について色々と調べるようになりました。
 ある日、書店で一冊の本が目にとまります。タイトルは「新聞がなくなる日」(草思社)。元毎日新聞記者の歌川令三氏が、アメリカや韓国の新聞市場でインターネットが侵食し、アメリカでは地方紙が次々に倒産していることを知りました。
 もちろん、アメリカと日本では国情が違います。その時に初めて知りましたが、販売収入と広告収入の比率で日本は大体「3:2」くらいで販売が全体の6割を占めますが、アメリカは7割を広告に依存しており、ネット広告の出現が経営に与えた打撃は日本と比べ物にならない大きさでした。
 その傾向は、読売でも決して無縁でなく、読売でも広告収入が年々目減りし広告局の社員が苦労している話は社内で聞かされていました。
 なお、具体的な数字ですが、日本新聞協会加盟社の2003年から13年にかけての財務を見ると、総売上高(2兆3576億→1兆8990億、▼20%)、販売収入(1兆2640億→1兆1302億、▼11%)、広告収入(7544億→4417億、▼42%)という具合です。
 日本の新聞市場は世界的に見ても強固な宅配網の存在により、販売収入でなんとか持ちこたえているという構図くらいは、経営の知識がなかった当時の私にも分かってきます。一方で大学生を取材すると新聞を購読する若者が減っている事実に直面します。彼らはもっぱらネット経由でニュースをチェックしています。
 「新聞業界は自分が定年を迎える2030年代、もう絶滅寸前になっているのではないか」。そう不安になる私を追い討ちした決定打と体験が3連発も発生します。(続く)

●新田哲史(にったてつじ)
言論プラットフォーム「アゴラ」編集長/ソーシャルアナリスト
1975年生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞東京本社入社。地方支局、社会部、運動部で10年余、記者を務めた後、コンサルティング会社を経て2013年独立。大手から中小ベンチャーまで各種企業の広報や、政治家の広報・ブランディング支援を行う。本業の傍ら、東洋経済オンライン、現代ビジネス(講談社)で連載。ブロガーとしてアゴラ、ブロゴス等に寄稿しており、2015年10月からアゴラの編集長を務める。