ビジネス : 第5回 モノを買う消費と違う、経験を買う消費とは何か

第5回 モノを買う消費と違う、経験を買う消費とは何か

第5回 モノを買う消費と違う、経験を買う消費とは何か
 消費される商品の種類でいえば、たとえば高級バッグや靴のような商品と、映画とは違う商品です。モノを買うという消費ではなく、体験、経験として消費されるからです。モノを買うという消費は、時間が経つとほとんどのものが色褪せてしまったり、もっと新しくて機能性が向上した商品が作られるために、自分の中での消費の満足度は下がっていきます。ブランド物の高級バッグを衝動買いしたとしましょう。そのときは楽しかったり、ストレス発散ができるかもしれませんが、その高揚感のような気分は長くは続かないでしょう。
 でも、経験としての消費は、時間が経つほどに価値が上がっていきます。昔観た映画が何年たっても自分の好きな映画のナンバーワンだと言う方は数多くいますよね。
 また、モノを買うという消費は、他人と比較してどうかという価値になりやすい。あの人が持っているあのバッグが欲しいとか、あの人のバッグよりも高級だから嬉しいとか。
 でも経験としての消費は、他人との比較で満足度は測れません。たとえば、好きな人と会って食事をしながら話すといった、ささやかだけれども、自分にとってはとても「特別な幸福感」が得られたりします。
 経験としての消費の価値は、なかなかはっきりと数値化できないわけです。
 さらに経験としての消費は、毎回「得した!」とも言い切れないわけです。あとから考えると「損した!」ということも少なくないですね。一方、「あのときは損したと思ったのだけど、実はそのあとにあの経験があってよかった」ということも、またあります。若いときの旅などは往々にしてそういうことがありますよね。
 ここまで書いてきて再認識したことは、経験としての消費は、やっぱり面白い。映画のビジネスに携わったので、1作品ごとの興行成績をシビアに受け止める習慣ができてしまいましたが、その視点からふっと自由になってみると、映画の面白さを伝えるという仕事、つまり貴重な時間とひきかえにかけがえのない経験や体験をみなさんに供給するという仕事は本質的にとても面白いと思うのです。


本連載の記事はすべて小社刊『ヒットを生み出すインスピレーションの力学、共感という魔法 ――東映、ディズニー、東宝東和で学んだ仕事のヒント』に収録されています。



鈴木英夫(すずきひでお)
1962年、神奈川県横浜市生まれ。1985年、東海大学文学部広報学科卒業。同年4月、東宝東和株式会社入社。1996年2月、ブエナ・ビスタ・ジャパン株式会社(現ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)入社。2000年4月、エグゼクティブ・ディレクター/宣伝本部長に就任。2005年11月、日本代表に就任。2010年3月、退任。2010年6月、東映株式会社入社、執行役員 国際営業部長。2014年6月、執行役員 映画宣伝部長。その他、2012年7月〜現在、経済産業省 留学検討委員会(平成25年度より国際人材育成委員会)委員。2013年1〜5月、NHK経営委員会NHK『外国人向けテレビ国際放送』の強化に関する諮問委員。